Technology for Museum CHI2009

CHI2009という学会のため、2009年4月5日〜4月10日、ボストンに行ってきました。国立民族学博物館ATR産総研で行った、PSPICカードを利用した「みんぱくナビ」の実験についての学会発表です。



  • CHI2009

ACM Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI)は「カイ」と呼ばれHCI(Human Computer Interaction)の分野では難易度の高い国際学会なのですが、特に参加者が多いことでも有名で、今年も2000人以上が来ていたようです。日本からの発表もいくつかあって、どのセッションも大にぎわいでした。


我々のグループからの論文は、Technology for museumsのセッションでの発表でした。
国立民族学博物館の企画展「世界を集める」(会期/2007年7月26日(木)〜2008年3月4日(火)会場/国立民族学博物館 常設展示場内)のためのWebベースのガイドシステム「みんぱくナビ」についての調査分析論文でした。論文の第1執筆者は産総研のDr.Tom Hopeです。




みんぱくナビ」とは、ATRミュージアムメディアというガイドサービスをカスタマイズデザインし、開発を行った、PSPWebブラウザを利用したガイドシステムです。タグのついた展示物を、来館者の好きなタグでたどって見ることができます。たとえば、「衣装」「宗教」といったタグがあります。それぞれの展示物には「衣装」の観点から考えるクイズや、その展示物の「宗教」に関する知識が得られるクイズのコンテンツがついていました。位置情報は、リアルタイムにはとりませんでしたが、何を見たのかをベースに、過去の位置情報は履歴として残すことが可能です。IDを使って、展示場内ではキオスク端末で、自宅ではWebページから、自分の履歴を閲覧することが可能です。


みんぱくナビ」がガイドする展示物は、民族学博物館の研究者のほぼ全員が一押しする一品でしたので、すべてのクイズと解答(解説文章)は、その展示物を担当している民族学博物館の研究者の皆さんが執筆してくださいました。展示物に対して、複数のタグ観点によるクイズを3〜10程度つくっていただきました。また、工夫してくださって、展示物をよく見ないと答えのわからないクイズも多数あり、内容は充実していました。


企画展では、ICカードが配布され、来館者は自分のIDを取得することができます。ICカードを展示物のエリアごとに設置されたICカードリーダにかざすと、自分の見たエリアの履歴が残ります。PSP端末と同様、キオスク端末とWebでの振り返りが可能です。このICカードの仕組みは産業総合研究所のチームが担当してくださいました。ICカードは、仲間で来た場合には、グループ登録が可能で、お互い何を見たのか、今どの辺にいるのかも見ることができます。企画展の会場は見通しがよかったのですが、広い館内ですと、自分の友達や子供がどこにいるのかをほぼリアルタイムで知ることができるのは便利です。


PSPの導入、ICカードの導入、タグで見る展示物、Webでの振り返り・・・新しいアイディアがたくさん盛り込まれた展示場での「みんぱくナビ」の実験でしたが、来館者の評判はおおむね好評でしたが、年配の方には操作が難しいとか、登録が面倒だったとか、そういったデザインと運用面での課題が出てきました。一方で、ものすごくハマッて、タグで巡るのが楽しくて1時間くらい企画展コーナーに居る人もいました。

  • Familial collaborations in a museum

今回発表した論文は、タイトルが「Familial collaborations in a museum」です。約半年におよぶ日常的な運用の期間中、とある週末に行った家族間利用だけに限った実験について、会話や行動をエスノメソドロジー手法で分析したものです。
論文は下記から見ることができますので、是非ご覧ください。


Familial collaborations in a museumPDFで4MBあります。(重くてスミマセン)



家族間で利用する際、「みんぱくナビ」では、コラボレーションが発生して、家族間での思いがけないやりとりがあり、発見・共同注視・注目を向けさせる行為、がありました。使い方を一緒に学んだり、同じ展示物のクイズを一緒に楽しむために画面を同期させようとしたり、子供が親にあれこれ指示したりする場面が見られました。


携帯端末=個人ユース という固定概念がありますが、この分析は、ミュージアム来館者の多くを占めるグループ来館者のために、どういった端末をデザインするのかのヒントになります。


デジタル時代のスミソニアン博物館を考えるWiki

スミソニアン博物館から、デジタル時代における
スミソニアンのあり方を、一般からYouTube投稿できるようです。
5月21日〜6月30日のあいだに一般投稿を受け付けています。


Giving the new ways of learning
technology+internet+
social networking+
photos+videos+cellular phones

where do you see The Smithsonian's museums and
websites going in the future?


ビデオによる呼びかけはこちら。

また、このスミソニアンからの呼びかけに対して
いくつか動画がアップされはじめています。



スミソニアンは、2009年1月からWikiを使った
外部からも参加できるスミソニアンのデジタル時代の
情報公開や、未来を考えるフォーラム
SI Web and New Media Strategy Wiki
を開催しています。


Wiki上でいくつも面白いディスカッションやカンファレンスの議事録があります。
Games and Museums
http://smithsonian-webstrategy.wikispaces.com/Games
スミソニアンでも、若いビジターが減少していて、ゲームを取り入れることで
失われた若い世代を取り戻したいと考えているようです。
ゲームの良いところは・・・

* Satisfying work to do
* The experience of being good at something
* Time spent with people we like
* The chance to be a part of something bigger


ということで、あくまで目的は、若い人達に博物館に興味を持って貰うことにしぼって
ゲーム性のある情報提供に取り組むようです。


日本では、ゲーム端末が普及していて、大人もゲームをするので
あまり抵抗なくゲーム端末のガイドは浸透しそうですが、
(実際ガイドシステムのプラニング段階ではゲーム機の利用提案が多いです)

欧州では、ゲームやアニメは子供のもの、ということで
大人文化とは全く違うというはっきりとした線引きがあり
大人文化の象徴であるミュージアムでは、すぐに運用されないと思いますので
米国でまずスミソニアンが良例をつくればアリになるかもしれないですね。

この他にも学会関係や研究会のトピックスがあります。


スミソニアンが、こういったフォーラムや
研究会の内容のすべてをネットに置いていて
Think Globally, Act Locallyの精神に基づいて
ネットを使って運営しているのがすごいと思っています。

ミュージアムガイドとゲームデザイン

ミュージアムや観光地でよく耳にする「ルート案内」
一番効率の良いルートを案内する、
一番空いているルートを案内する、
これは、提供者側からは、おそらく便利だと思われるので
提供したいサービスです。
でも実際のビジターは横道にそれたり、自由にくつろいで休憩して
あまり提案した通りのルートをまじめに回るということはしません。
むしろ、提案されると腹が立つ、といった意見さえ聞くことがあります。
機械にあーだこーだ指図されるのがイヤな人は多いです。

こういったルートを、「ルール」として押しつけるのではなく
ゲームに置き換えることによって、もっと先を見たいとか
どんどん攻略していきたいといったモチベーションを持ってもらい
結果的に、効率よく空いているところを回れたね、
ということになれば良いのかもしれません。


博物館ガイドシステムをデザインするにあたり
博物館の持つコンテンツを見てもらう、理解してもらうといった
知識を提供するツールだけではなく、
ゲーム的な要素を取り入れるのは効果的なようです。
たとえばクイズを提供した場合はポイントがついたり
全部クリアすればスペシャル画面を見ることができたり、
そういった直接的に知識に結びつかなくても
展示物をよく観察する、といった行動に結びつくような
行動を促すことを意識します。


ミュージアムインタラクティブについてゲームからのアプローチ
Museum 2.0のブログ投稿Think Like a Game Designer
では、ミュージアムインタラクションデザイナーさんが
ゲーム開発のワークショップに参加して気付いたことを投稿しています。

  1. 抽象化することで、人と人をつなぐインタラクションのプロトタイプを、簡単に、素早くつくることができる
  2. ビジター(来館者)にも攻略法あり
  3. 組織の価値に従って、「上手に遊べる」ことを推進するような、インタラクションをデザインすることができる。

博物館側で考えていた画一的なゲームの攻略法は、
ゲームとしてはあまり面白いものではない、
なぜならビジターは、ゲームとなると多種多様な攻略法を持っているから。
展示場内では、あらかじめ用意した、ゴールまでの「正しい」道のりをデザインするのではなく
個々人の攻略法を持ち込めるようなルールセットやプラットフォームを
準備する方がゲームとしては面白いということに気付いた、ということです。

We rarely talk about this when we design museum exhibits. We expect that visitors will intuit our intended strategy and play accordingly. This doesn't make sense. Games are more interesting when there is more than one viable strategy; that's why we graduate from Candyland to chess. Rather than designing a prescribed "correct" path through an interactive exhibit, we should be thinking more about the rule sets or platforms we can design that will invite visitors to successfully bring personal strategies and modes of interaction to the experience.

画一的なルールで見せているクイズ等のゲームもどきですが、
プラットフォームを考えるということが、まずデザインの最初
なのかもしれません。
こういった体験を生み出すためには、プロトタイプが必要ですが
ガイドシステムのほうは、実際のところ開発期間が短かったり
充分なプロトタイピングができないまま、会期スタートという
こともあります。単純なゲーム(紙とかも可)でかなり抽象的な
プロトタイプをつくって、コンテンツの見方やゲームの楽しさの
両方を構築できると良いですね。


民博で行った「みんぱくナビ」は、ルートを設定せずにタグで回るという
ユーザまかせのガイドを提供しましたが、
ルート通りにきっちり回る人と、全く自由にタグで回る人で
かなり多様な使い方が見られました。
みんぱくナビ」についてはこちら>>>>
効率は関係なく、自由にタグで回る事自体が
新しい体験となっていたということだと思います。